コラム:五輪・

コラム:五輪・ワクチン・総選挙、通過後の日本が直面する光と影=熊野英生氏


July 20, 2021 / 11:09 PM / 9 hours ago更新
コラム:五輪・ワクチン・総選挙、通過後の日本が直面する光と影=熊野英生氏
熊野英生 第一生命経済研究所 首席エコノミスト
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[東京 21日] - 日本経済の先行きは、いつも以上に不透明だ。理由は、コロナ収束が見通せないためだが、同時に2021年に大型イベントが重なっていて、互いにコロナの影響を受けていることもある。
 7月21日、日本経済の先行きは、いつも以上に不透明だ。理由は、コロナ収束が見通せないためだが、同時に2021年に大型イベントが重なっていて、互いにコロナの影響を受けていることもある。写真は8日、都内で撮影(2021年 ロイター/Issei Kato)
年内には、1)東京五輪、2)ワクチン接種、3)衆院選という3大イベントが控えている。これらは、景気シナリオに微妙な変化を与える。
<五輪とコロナの相関>
まず、東京五輪は、無観客での開催になり、人々の消費マインドを盛り上げる契機になれば、という期待感もほとんど失われてしまった。景気に対しては、むしろ下押しのリスクとして捉えられている効果の方が大きい。
8月8日までの日程で新規感染者数が大きく減らなければ、政府は8月22日までの緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の期限を延長し、自粛や制限を一段と強化する可能性がある。五輪というイベントが終わって、感染リスクを制御できなかったという批判が、さらなる感染対策の強化につながるという懸念である。
五輪を悪者にしても仕方がないと筆者は感じるが、政府が五輪前に感染収束に成功できず、第5波の感染拡大が起きてしまったため、事態は「複雑骨折」の様相を呈している。
仮に8月22日以降、東京都での緊急事態宣言が延長されると、7─9月期の成長率が下方修正される。日本経済研究センター「ESPフォーキャスト調査(7月)」のデータなどを参考に試算してみると、7─9月期の成長率が実質ゼロ%だったと仮定すれば、2021年度の経済成長率は当初予測の3.6%前後から1.2%ポイント程度下振れする。
<ワクチン効果のリスクシナリオ>
一方、2021年内の期待されるイベントは、ワクチン接種である。菅義偉首相は10─11月には希望者全員の接種を済ませると述べている。ワクチン接種を終えた人が、コロナ以前のように消費水準を戻せば、成長率は上昇する。先のESPフォーキャスト調査では、7─9月期に前期比年率でプラス4.90%の実質成長、10─12月期は同4.58%と大きく伸びる見通しだ。
首相官邸ホームページには、毎日ワクチン接種状況が発表されている。7月20日時点で7192万回、接種率34.2%とある。高齢者に限ると、すでに1回以上接種した人は82.3%に達している。7月末に高齢者接種を完了させるという政府の目標は、おおむね達成されそうだ。
しかし、接種率がさらに高まらないと、新規感染者数が低下しない可能性が残る。仮に2500万人が接種済みでも、残りの1億人の間で感染が広がることによって社会的な不安が沈静化しないということも起こり得る。医療関係者は、集団免疫が獲得されるまで国民に活動自粛を求めるだろう。国民の中で接種しない人の割合が3─4割と高止まりすれば、集団免疫の獲得は遅れる。
「ワクチンこそ、経済再開の切り札」という見方が狂ってくることが、10月から11月にかけてのリスクシナリオと考えられる。筆者は9月中のどこかでワクチン効果は発揮されると見込むが、その成否はまだ、わからない。この点にも不透明感が潜んでいる
<不透明な衆院選>
10月21日に衆院議員の任期満了を迎える。常識的にはそれまでに衆院解散と総選挙が行われる。感染収束が進んでいない場合、任期満了前の解散は、与党にとってハードルが高くなる。
もしも、10月21日の任期満了ぎりぎりで解散すると、憲法54条と公職選挙法に基づき40日以内に衆院選が行われる。そのケースでは11月28日を投票日にすることも可能になり、選挙の不透明感はそこまで持ち越される。
選挙が景気に与える実体効果は少ないと思うが、政権の安定と様々な政策運営は密接に絡んでいるので軽視できない。菅政権が「短命政権」になるとのムードが広がると、CO2削減やデジタル化推進といった中長期の政策も宙に浮きかねない。
2022年夏に参院選を控えているので、次の衆院選は菅首相の求心力を維持する上でも重要イベントになる。総選挙は、政策運営の不透明感に直結している。
<イベント後の期待と懸念>
五輪、ワクチン接種、選挙は2021年後半の見通しを不透明にしているが、それらを無事に通過すれば、割合に明るいシナリオが待っている。
ワクチン効果によって国内の感染収束が実現できれば、全国では各種行事の再開が個人消費を盛り上げるだろう。課題は、インバウンドの再開である。内外での人的交流が約2年間停止していたのをどのように再開するかという点で、企業活動への影響も大きくなる。
また、ワクチン効果によるリベンジ消費(落ち込んでいた部分の復元効果)は一時的との見方がある。しかし、政府は打撃が深かった国内観光産業に対して、相対的に長く政策支援をするだろう。「Go To事業」を再開して、その内容も中小の宿泊業者にまで恩恵が及ぶように仕組みを工夫すると思われる。感染リスクが残っているときには打てなかった需要刺激を、2022年になれば様々に講じてくる可能性がある。これは、平均的な経済予測に織り込まれていない要因である。
おそらく、サービス消費の需要が盛り上がったとき、話題になるのは、人手不足と賃上げだ。2021年は製造業の収益が回復してきたので、賃上げが進むとすれば2022年の春闘である。
コロナ禍では失業不安が騒がれることが多かったが、失業率は高まらなかった。むしろ、業績を回復させたセクターは求人を増やす。ワクチン効果が広がれば、多くの企業が採用を積極化させると予想できる。このことは、物価上昇圧力が雇用面から高まりそうだという見通しにつながっていく。
反対に注意すべきは、2022年の海外経済の方だ。米連邦準備理事会(FRB)の緩和修正や、各国での隠れた過剰債務問題などに金融マーケットが注目するかもしれない。
日本の景気情勢の方向感が海外経済によって変わることが多い点から考えると、国内の上振れ要因だけで全体観を語ることは、やや楽観的過ぎると思う。バランスのとれた見方を保つことが重要になる。
(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
熊野英生氏
*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。
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