彼女は日本が大好きですし、母国で五輪があるのは特別なことです。日本に出発する直前に髪の色を赤と白の日の丸カラーにしたのも、五輪に対する気持ちが表れています。聖火リレーの最終走者を務めたのもそうです。なおみが選ばれたのはこれまで発信してきた言葉や思いを多くの人に受け止めてもらえたからだと思いますし、それをみんなで共有したいという彼女の思いもあると感じました。五輪への感謝もあるし、すごい大役を務めたねという話は彼女ともしていました。
日本で生まれ育ちましたが、僕も海外生活が長いので、トレーナーとして五輪に参加するために故郷に帰ってくるのはすごくうれしかったです。なおみを見て彼女が五輪を楽しみにしていると思いましたし、彼女も僕が楽しみにしていると感じていたようです。大会に向けて出発する飛行機に乗る前など、なおみから「エキサイトしているね」と言われ、僕もガッツポーズを見せたりしていました。
今回の東京五輪は新型コロナウイルスの影響で制限があるため、他の競技会場に行ったり、お客さんの前でプレーしたりできないのは残念ですが、五輪らしさも感じました。会場には五輪のマークがあり、各国の代表選手が国旗を付けたユニホームを着ています。大会運営のボランティアの方々がいて、笑顔で手を振ってくれるとか。会場の有明テニスの森公園(東京都江東区)の中を移動する時、ゴルフカートを使うんですが、そこに乗せてもらう時に運転している方が「なおみちゃんがんばって」と応援してくださった。とても温かくて良い空気が流れていました。学生さんから年配の方まで男女いろいろな方がいて、なおみも声をかけられてうれしかったようです。「ありがとうございます」と日本語で応じていました。
実際に会場で他の競技を観戦することはできませんが、僕はいろいろなスポーツが好きで、空いている時間はずっとテレビをつけっぱなしにして五輪を見ていました。いつもの大会と同じく、コーチのウィム・フィセッテや体のケアを担当する茂木奈津子トレーナーら「チームなおみ」のメンバーも五輪に同行していて、僕の方から率先して五輪の話題を切り出していました。なおみはバスケットボールが好きなので「テレビでバスケの八村塁選手の試合を見たいね」と話したり、「柔道の阿部きょうだいの優勝すごかったね」と金メダルの話題をしたり。なおみは普段ロサンゼルスを拠点に練習しているので、「スケートボードで優勝した堀米雄斗さんもロサンゼルスに住んでいるんだね」という会話もチームの中でしていました。なおみはテニス選手ですが、他のスポーツから影響を受けることはあると思います。ソフトボールやサッカー、卓球、競泳、バドミントンなど、他の選手がどんなふうに挑んでいるか気になりますし、勝った選手や負けた選手の様子など、僕もいろいろ注目して見ていました。
今回は目標にしていた金メダルには届きませんでしたが、1、2回戦は良い試合ができていたと思います。誰しも初戦は硬くなって緊張しますが、1回戦からかなり高い集中力で、意表をつかれたネット際のドロップショットに対しても敏しょう性とあきらめない気持ちが出ていました。日本でプレーするのは2年ぶりで、母国で開かれる五輪では特にがんばりたい。緊張感がある中、負けた試合は序盤にリードされ、立て直すのが難しい展開になったと思います。
なおみの東京五輪は終わってしまいましたが、彼女は23歳で伸び代はまだまだあります。トレーニングを重ねれば、得意なハードコートだけでなく、クレーやグラスコートでも十分力を発揮する能力を持っています。8月末には4大大会の全米オープンが始まるので、3回目の優勝を目指してがんばりたいと思います。【聞き手・長野宏美】
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