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 英富豪リチャード・ブランソン氏が立ち上げたヴァージン・ギャラクティックの事業は本当に宇宙旅行なのか、それとも単なる飛行機の「超高高度」搭乗体験を美化しているだけなのか――。7月11日、米ニューメキシコ州で撮影(2021年 ロイター/Joe Skipper)
アマゾン・ドット・コム創業者ジェフ・ベゾス氏が設立し、宇宙事業でヴァージンとしのぎをけずっているブルーオリジンは、後者だと主張し、その理由としてヴァージンが飛行試験を行った有人宇宙船が、国際航空連盟によって宇宙空間と大気圏の境目と定められた「カーマン・ライン」を超えられなかった点を挙げている。
飛行機との関連で言えば、ヴァージン・ギャラクティックは今後予定している商業宇宙旅行の料金を大幅に引き上げない限り、赤字に苦しんでいるヴァージン・アトランティック航空の轍(てつ)を踏む可能性もある。
ヴァージン・ギャラクティックの新型有人宇宙船が11日、無事に飛行試験を終えて帰還したことは、ブランソン氏にとって格好の宣伝材料になった。ブルーオリジンが計画している20日の初の有人宇宙飛行より1週間余り先んじたからだ。試験成功により、ヴァージン・ギャラクティックが来年から商業宇宙旅行を開始する道が開けるだろう。ただし技術的に疑いのない成果が、必ずしも商業的な成功の訪れを示すとは限らない。
ヴァージン・ギャラクティックが2019年に出した投資家向け宣伝文によると、同社は当時から4年後に年間1545席を1席当たり約36万ドル(約3900万円)で販売し、5億6000万ドル前後の純収入を得られる見通しだ。ロケットのモーターや飛行士の賃金といった諸費用を差し引くと、利払い・税・償却前利益(EBITDA)は2億7400万ドルに達し、新型船配備と株主還元に必要な年間5500万ドルを楽々と手当てできるとのそろばんを弾いて見せた。
試験発射の遅れにより、こうした見積もりは2年ずれ込み、現在のヴァージン・ギャラクティックの企業価値は25年の予想EBITDAの27倍に当たる80億ドルとなっている。一方、この評価は商業宇宙旅行市場を過小評価しているとの声もある。コーエンのアナリストチームによると、ヴァージン・ギャラクティックは50年までに1兆ドル規模に膨らむ超高速の国際旅行市場の一角を占められる見込み。30年時点の企業価値は、予想EBITDAの22倍と仮定すれば120億ドルに高まる。
しかしより短期的リスクとして、ブランソン氏は宇宙旅行料金を当初設定の25万ドルから大きく引き上げられないという現実がある。この設定では採算面で余裕がほとんどなくなり、25年の収入見通しは3億8600万ドル、諸費用を同等とみなしてもEBITDAは6900万ドルに目減りする。
当初料金は恐らく割り引いた水準にしたのだろう。それでもブルーオリジン、あるいはテスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が率いるスペースXといった競争相手が宇宙船を打ち上げようとする中で、値上げは難しいのではないか。特にブルーオリジンとスペースXが最終的に、「軌道宇宙飛行」を視野に入れているだけになおさらだ。決まった使い道のないお金を持て余している人々は、おのずとこの世界から最もかけ離れた体験へと引き寄せられ、ヴァージン・ギャラクティックの提供するのは相対的にスリルが低いサービスになりかねない。投資家としては、ヴァージンの前途に波乱が待ち受けていると覚悟すべきだ。
●背景となるニュース
*定員6人全員が搭乗した初めての試験で、1時間の飛行によって高度86キロに達し、数分間にわたってほぼ無重力状態になった。
*ヴァージン・ギャラクティックは12日、新型船開発・製造などの資金に充てるため最大で5億ドル相当の新株を売却する方針を表明。それ以降、同社株価は33%下落している。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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