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 作家の藤野可織さんが、大阪歴史博物館(大阪市中央区)で開催中の「あやしい絵展」を鑑賞した。絵画や書籍の挿絵など約150件を通して、単に「美しい」だけではない魅力的な表現を紹介する本展。会場を巡り、「女性の表象の多さ」を感じたという藤野さんが読み解く「あやしさ」とは。
あざのある女性の絵
 「私、猫派なので猫がいてうれしいです」。会場冒頭に飾られた稲垣仲静(ちゅうせい)の「猫」を前に、藤野さんが声を弾ませた。赤い布団の上にちょこんと座った姿が愛らしい。本展では「案内役」として絵にまつわる物語を解説するなど「あやしい」表現をめぐる旅をナビゲートする。
 幕末~明治の浮世絵が並ぶ1章に始まり、2章以降は明治以降の近代化で、西洋からの影響を受けたさまざまな絵画表現が咲き乱れる。と、藤野さんはある作品の前で足を止めた。
 髪の乱れた女性が一人、横座りでこちらに視線を投げる。顔には大きなあざ。一体、彼女の身に何が起きたのか。しげしげと画面を見つめて言う。「あざがあるというだけで謎めいた雰囲気になりますよね」
島成園「無題」大正7(1918)年 大阪市立美術館
 描いたのは大正期の大阪を中心に活躍した女性画家、島成園(せいえん)。これまでに何度か成園の絵を見たことがあるという藤野さんは「この作品はやっぱり他の作品とは異なる迫力があります」と一目置く。あざについては、「世の中に与えられたあざ」と独自に解釈。「女性画家が珍しかった時代に、たいへん若くしてデビューした成園が、その作品の評価も含めてどう扱われてきたのかは察することができる。そのような目で世間に見られた、ということをあざに込めたのではないでしょうか」
見る側の欲望
 本展タイトルの「あやしい」は、ミステリアス、退廃的、神秘的、グロテスクなど単なる「美しさ」にとどまらないさまざまなニュアンスを含む。藤野さんは人魚や芸妓(げいぎ)を描いた作品を例に、「あやしいという言葉には、見る側の『このように見たい』という欲望や相手を特殊なものとするまなざしがある」と指摘。たとえば橘小夢(さゆめ)の肉筆と版画がそろう「嫉妬」。浄瑠璃や歌舞伎で知られる苅萱道心(かるかや・どうしん)の物語を主題とした作品で、普段仲の良い妻と側室の頭髪がある日、互いの嫉妬心により無数の蛇と化し、もつれ合う様が描かれる。物語では2人の心の内を知った夫が出家してしまうのだが、「嫉妬してほしいけど争われるのが怖いとか、夫の独り相撲に過ぎないですよね。2人は本当に仲が良かったんだと私は思います」
 出展作には「描かれる対象」としての女性がたびたび登場する。「『あやしい』という言葉にふさわしい絵を集めたとき、これだけ女性像が多くなるということは、やっぱり女性というのは他者であり、他者であるということは見る主体・描く主体は圧倒的に男性だったんだなあと思いました」。そんな中で「異色」と表現するのが梶原緋佐子(ひさこ)の作品だ。
 故郷である京都の美術館に作品が多く収蔵され、同じ京都生まれの藤野さんにとって「子どもの頃から身近に感じていた」画家でもある。「暮れゆく停留所」(前期展示)や「唄へる女」(後期展示)などの画面に登場するのは市井に生きる女性たち。「色合いもシックで私好み。性的な色っぽさとは別に、見られるためではない女性が描かれている点にひかれます」。同じ京都ゆかりの画家では、岡本神草(しんそう)や甲斐庄楠音(かいのしょうただおと)の女性像も学生時代からのお気に入りだ。
岡本神草「拳を打てる三人の舞妓の習作」大正9(1920)年 京都国立近代美術館<後期展示>
 神草の「口紅」(前期展示)は発表当時、<女性の裡(うら)にある或物(あるもの)>を表現していると評されたが、それも「見る側の願望」と藤野さんはツッコむ。太夫を描いた楠音の「春宵(花びら)」(7月19日まで)は「疲れている時に強いフラッシュをたかれたら私もこう写る。あえてこれを描くなんて意地悪」と笑いつつ、「でも描きたくなる気持ちも分かります」と妙な親しみを持つ。
気になる物語も
 藤野さんは大学で美学・芸術学を専攻し、アートに造詣が深い。美術館や博物館で作品を間近に見る楽しみについて、「実物では作品の大きさや意外な小ささを知ることができるのがいいですよね。近づいて細かいところまで見られるのも、筆の跡を目でなぞって楽しむことができるのも、会場に来てこそ」と説明する。
 本展をきっかけに、気になる物語にも出会った。たとえば橘小夢の「若菜姫」は長編「白縫譚(しらぬいものがたり)」の情景が描かれる。「毛がふかふかして、目もクリッとしてかわいい」と藤野さん一推しのクモに乗り、笑みを浮かべる姫。クモから妖術を授けられ、父の復讐(ふくしゅう)を果たしていく痛快な物語だ。あるいは小村雪岱(せったい)によるモノトーンの挿絵が美しい邦枝完二の「お傳(でん)地獄」。「気の強そうな顔をしたお傳がステキ。男装を解く場面もかっこいいし、どんな話か読んでみたいです」
小村雪岱「邦枝完二『お傳地獄』挿絵原画〔川に投げ込まれたお初〕(『名作挿画全集 第1巻』平凡社)」昭和10(1935)年 個人蔵<後期展示>
 「昔からちょっと怖いものが好き」と語る藤野さんの小説もまた「あやしい」と形容されることが多い。とはいえ当の本人は「あやしさ」を意識したことはないと言う。かように一方的なまなざしや欲望に潜む「あやしい」表現。その世界に今夏、誘われてみませんか?
ふじの・かおり
「あやしい絵展」の内覧会を訪れ、島成園の作品の前に立つ作家、藤野可織さん=大阪市中央区の大阪歴史博物館で2021年7月2日、菱田諭士撮影
 1980年京都市生まれ、在住。同志社大大学院美学及び芸術学専攻修士課程修了。2006年「いやしい鳥」で文学界新人賞を受賞しデビュー。13年「爪と目」で芥川賞。著書に『おはなしして子ちゃん』『ドレス』『ピエタとトランジ<完全版>』『来世の記憶』など。
あやしい絵展・大阪展
 <会場>大阪歴史博物館(大阪市中央区大手前4の1の32、06・6946・5728)
 <観覧料>一般1500円、大学・高校生1100円、中学生以下無料。
 ※新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、掲載情報の変更や入場制限などを行う場合があります。チケット販売の詳細、最新の情報については展覧会公式サイト(https://ayashiie2021.jp/)でご確認ください。
 主催 大阪歴史博物館、毎日新聞社、MBSテレビ

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