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 はじめしゃちょーの不祥事にYouTubeが沸く中、HIKAKINがあげた動画は…「シュークリーム飲んでみた」。飲むシュークリームの缶詰に舌鼓を打っておなじみの顔芸を披露していたのである。この変わらぬ姿勢に「見ると穏やかな気持ちになる」「さすがの安定感」「殺伐とした空気が吹っ飛んだ」とHIKAKINの株が上昇した。
 次に2021年1月、ワタナベマホト氏が事務所契約解除を発表した際、HIKAKINはファミレスチェーンの「サイゼリヤ」のテイクアウトサービスを利用する動画を投稿。コロナ禍のなかで苦境に立たされる飲食店を応援するものだった。
 さらに今回の宴会報道があった日。HIKAKINは何をしていたか、というと、自宅で黙々と巨大バターを揚げる動画を投稿していた。HIKAKINの安定感を望んで、この騒動の中、彼のYou Tubeを観に行ったユーザーは多かったようで「HIKAKINしか勝たん」「安心感がすごすぎる」「別格すぎる」などの反響が上がっている。
 そもそもHIKAKINは“炎上知らず”で知られている。2018年に、自身の髪の毛をボール状に丸めた通称「毛ボール」と、使用済みの靴下、マスクをフリマアプリ『メルカリ』に出品するという動画が賛否両論になったものの、ほぼ無傷。その姿はまさに聖人=セイントだ。
 HIKAKINのツイートには、ほぼ毎日何かの動画投稿のお知らせが。4つのチャンネルを有し、現在総登録者数は1747.3万人にも及ぶ(2021年7月1日時点)。品行方正でクリーンなイメージを保ち続け、常人には成し得ない所業を今も続けている。
■「“人柄”をうりにしている」HIKAKIN動画、YouTube界の“テレ東”立ち位置に
 そんなHIKAKINについて、「2ちゃんねる」の開設者である西村博之ことひろゆき氏は、自身のYouTube動画で、長期的にうまくいくのに必要なのは“人格”だと発言している。
「YouTuberとして続けていく時に、最終的に必要なのって“人格”なんじゃないかと仮説としてある。最初のひっかけは、美女とかイケメンとかの情報。実際そのあと人が見続けるようにするためには、その人を見ると、おもしろい、楽しい、興味深い、習慣として安心するということなんじゃないかな」「HIKAKINさんの動画はみんな見る。あれは習慣なんだなと」(ひろゆき氏YouTubeより)
 また「HIKAKINさんはおもしろいことを目指しているわけじゃなくて、HIKAKINさんが何かをやっているのを見たい。企画ではなく、“人柄”をうりにしている。長期的には安定する。企画に頼るのは、ごく一部の人以外無理。人格でやるほうがいい」とも分析。企画重視でいくとネタが枯渇してしまい、その後消えていくYouTuberが多いと喝破していた。
 「“人柄”が重要だというのはYouTuberに限らず、古くから芸能人でも言われていることです」と話すのはメディア研究家の衣輪晋一氏。「テレビ局のプロデューサーやスタッフにインタビューした際、“残り続ける芸能人の条件は?”という質問に、十中八九返ってくる言葉が“人柄”。よくSNSで“ゴリ押し”などという言葉が見られますが、テレビによく出ている人たちはその“人柄”で多くのスタッフに気に入られている場合が多い。数字を持っているかどうかも重要ですが、それが長期的なブームにつながるかと言えば、はなはだ疑問だというのは皆さんも知る通り」(同氏)
 言われてみれば、タモリやビートたけしなど、企画が云々よりもその動向や人物像、憎めなさで人気が続いている芸能人は多い。そして衣輪氏は、HIKAKINの姿勢の、インターネットやサブカルチャーとの相性の良さも指摘する。
「不祥事、事件などがあっても揺るがぬ(?)編成で言えば、テレビ東京があります。漫画『アイアムアヒーロー』(小学館)でも世界が崩壊の危機にある際、主人公が『テレビ東京がアニメを放送している間は大丈夫だ』というセリフがありましたが、不祥事などがあった際にHIKAKINさんの株が上がる現象は、ネットやサブカルで言われるテレ東ネタに近いものがある」(同士)
 確かに、数字をガツガツ追い求める、話題性の強さや売れ筋の企画より、“らしい”安定かつ独自の番組を放送し続ける姿勢もテレ東とよく似ている。実際、SNSやサブカルでNHKや他のキー局を差し置いて、テレ東やその番組のネタが圧倒的に精彩を放っているように見える。
■安定性は個々の意識に起因するリスク、現在のYouTuberが抱える問題点
 昨今のYouTuber炎上の傾向を見ると、結局その安定性は“個々の意識”にゆだねられていると思われる。そしてこれは現在YouTuberが抱えている問題点でもある。
 そんな中、HIKAKINは、清廉性、潔白なイメージが強い。本人がそのイメージを保ち続けている様子は、ある種の“狂気”を感じる瞬間も。トップであるがゆえに、“限界”を吐露できない危機性をはらんでいるほか、子どもに大人気であることも、歌のお姉さん、体操のお兄さんのように不祥事は致命傷。その結果、ネットでは「子どもを笑顔にして食う飯はうまいか?」と、称賛まじりの揶揄が定型ネタとなっている。
 だがすべてのYouTuberがHIKAKINになれるわけではない。あらかじめ備わっている“人格”に起因するため、いくら企画がおもしろくてもネタがつきたら飽きられてしまう。現状、企画が止まってしまい、有名だったのに今名前を聞かないというクリエイターは多数いる。
「さらに言えば、“人柄”で成り立たったとしても、それはあくまで“個人”。実際、HIKAKINさんも問題になったYouTuberと同じ事務所に所属していますが、“人柄”のみを重視した集団では、組織としては脆弱であるという見方もできます。“人柄”については、その人の資質が重要なので、組織は介入できない。その介入できない部分でYouTuberとしての真価が問われる。HIKAKINさんも問われ続けているわけで、そんな中、トップとして、セイントとして、今後もあり続けられるのは、彼をもってしてもやはり難しい。これからYou Tubeを始める方にとっても課題となる」(衣輪氏)
 芸能人YouTuberが多数参入、専業YouTuberが生き残る道も厳しくなっている。カップルYouTuber、グループYouTuberが大多数を占めるなかで、そのトップに個人で君臨するHIKAKINの立ち位置は揺るぎない。ただでさえ、このコロナ禍だ。暗いニュースも多ければ、芸能人の不祥事もいまだ多く取り上げられている。そんな殺伐とした時代だからこそ、画面越しであっても“人柄”に触れたい。いつまでもHIKAKINを見て安心したいというマインドは”自然の摂理”と言えるだろう。
(文/中野ナガ)

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