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 『ABEMA』のテーマは「テレビの再発明」。本来のテレビの良さをインターネットで生かしていくコンセプトで、提携しているテレビ朝日の番組作りのノウハウを取り入れて制作している。従来のテレビと比べ、最も大きな変化は“時間や場所からの解放”。スマートフォンで観られることから、テレビの前に限らず、いつでもどこでも鑑賞が可能というところだ。
「『報道』『生放送』『同時性』『無料』をテレビの良さと定義しているんですが、これらを、インターネットによって自由にしていく。視聴者が時間とか場所から解放されて、より便利に使っていただけるサービスにしていこうということを基本のコンセプトにしています」
 “テレビのバリアフリー化”とともに、重要視しているのがコンテンツの充実だ。地上波で放送されている「ニュース」や「将棋」「相撲」などの番組も新たな切り口で挑んでいる。
「話題の発信源となりたいとも考えています。ABEMA発で話題を生むような“熱量”と“同時性”、“話題性”を弊社ではこれまでも、強く意識してきました。例えば相撲であれば、格闘技を模したクリエイティブになっています。覚えにくい力士たちの名前に親近感・共感を持ってもらえるような紹介シーンにしており、手を変え品を変え、若者に刺さりやすいクリエイティブに昇華させている自負があります」
 “熱量”と“同時性”、“話題性”を大切にしているからこそトレンドにも敏感。90年代頃から「流行はテレビが取り上げる頃には終わっている」と揶揄されてきたが、『ABEMA』は恋愛番組コンテンツなどで関わる10代との時間も活かし、各ディレクターが最新ドレンドの動向を読む感覚を磨いてきた。TwitterトレンドやYouTubeの急上昇もそう。これらを日常的に見てきた結果、単なる流行の後追い情報ではなく、ABEMA自身が流行の発信源になるような企画・番組・フォーマット作りに一日の長があるという。
「個々人の感性はもちろんですが、年代の当事者自身が直接感じている流行をピックアップする仕組みがあります。またある一人の個人的な話を聞いて、それがもしかしたら、まだみんなが気づいていないだけで、素晴らしいエンタメになるかもしれないという予測から企画になっていくものもあったりと、柔軟に考えています」
■“番組を作る”ではなく“話題を作る”姿勢でコンテンツを発信
「地上波の番組はターゲット層がとても広い。つまり誰が観ても意味が分かるものにしなければいけませんが、ABEMAではコアな熱狂、若者の好みに振り切れる。そのコアから大きな広がりを見せていきたい。もちろんエンタメの風を全制覇できるわけじゃない。でも起きた風は柔軟に昇華させていきたいし、まだエンタメ界の人が気づききる前の、生まれたばかりの現象を発見したい。弊社は意思決定フローが早いこともあって、そこからアクションを起こすスピードに関してはインターネット動画サービスならではないかと考えます」
 単純に地上波の番組をトレースした作りにもしていない。『ABEMA』では、地上波ではあまり観られない尖ったキャスティングや企画の番組が話題に上がることが多いが、決して“過激さ”を追い求めているわけではない。
「単純に『若者が今観たいものを届けたい』という想いが弊社は強いからです。過激な企画をイメージされる方も多いと思うのですが、地上波で放送できない過激な企画は当然弊社でも通りません。ユーザーが人に勧めたくなるコンテンツの真芯をいかに捉えられるか、その軸を大事にしています」と説明する。
 これは放送するコンテンツ選びにも生かされている。例えばアニメ映画を放送する場合、地上波では『名探偵コナン』やジブリ作品といった、全世代全年齢的に受け入れられる大ヒットアニメが選ばれるが、ABEMAは先日、コアなファン層を持つ『メイド・イン・アビス』の劇場版を放送。ネットユーザーとの相性が良かったせいか放送前からSNSで話題を呼んでいた。
「インターネット上でアウトプットするからには“同時性”で一斉に皆さんが口コミしたくなるとか考察したくなるとか、スマホで皆さんが処理していくテンポの良さが生きる作品選びもしています。考え方としては、ただ番組を企画するのではなく“話題から企画する”、“作ると届けるを分断させない”という信念のもと、観た人がどうリアクションしてくれるか、想像しながら構築していきたいという想いもあります」
 またコアからマスに話題を広げるため、深夜ラジオ的な作り方をしているパターンもある。
「大島麻衣さんに出演していただいた『チャンスの時間』の“女性芸能人の口説き方”なんかは、ショーアップされたマスメディアの真ん中じゃなく、『楽屋でちょっと悪さをしている空気感』や『(深夜)ラジオのような空間』。その方が、出演者の皆さんの熱量がすごく高かったりするんです。その熱が高ければ高いほど“当たり”ますので、地上波のように一億人に見せようと思っていないところが、功を奏しているともいえます」
■マネタイズに関しては道半ば、10代の熱狂だけでなく、20~30代に刺さる番組作りもしたい
「こうした事業で最も大切なのは“継続していくこと”だと思っているんです。中途半端なサイズでやめると当然収益のサイズもそこで終わる。ですから10年腰を据えてやろうと。当初弊社の目標は1000万人の週間アクティブユーザーを作るということでした(2019年6月に達成)。でもそれは入り口に過ぎず、2000万人、3000万人と増やしていくつもりです。それでマネタイズできるという簡単な話ではありませんが、スケールを大きくしていくことで、当然収益もそのスケールに見合ってきますので、マネタイズに関しては道半ばですが、とにかく試行錯誤しながら続けていくつもりです」
 このコロナ禍で他VOD(ビデオオンデマンド)の業績も伸びるなど、業界全体の底上げも追い風となった。だがコロナ禍では多くの人が被害を受け、生活の変化も余儀なくされた。そんななかABEMAはライブができないアーティストのためのライブ番組や課金による応援システムも作成。「オリジナリティはもちろんなのですが、そうしたことでの世の中や視聴者からイメージされる“好感度”というのも当然重要になります」と話す。
 しかし課題もある。「恋愛番組などの流行によって10代の熱狂を獲得出来た自負はあるのですが、その熱を20~30代にも大きく広げていきたい。ティーンの熱狂そのままに、もっとたくさんの人たちに向けて、大きな波紋を広げる話題の発信源になっていきたいのです。弊社の社員の平均年齢が30歳ぐらいなので、自らも熱狂できるコンテンツを作っていきたいですね」
 動画サービスとしては後発である『ABEMA』。そこで差別化しようと試行錯誤した結果、現在のようなオリジナリティに着地ができた。
取材・文/衣輪晋一

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