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「黒牢城」 [著]米澤穂信
 有名なエピソードだが、米澤穂信の手にかかればこれが魅力的なミステリの舞台に変貌(へんぼう)する。籠城(ろうじょう)長引く有岡城内で起きた事件を、牢の中の黒田官兵衛が解き明かすのだ。この発想には唸(うな)った。そんなの、面白いに決まってるじゃないか。
 処分保留の人質が密室で殺された謎や、名のわからぬ首級の中から大将首を探す話など、冬春夏秋に起きた四つの架空の事件が語られる。村重自ら現場を検分し関係者の証言を集める。そして迷った挙句(あげく)に、知恵者と名高い黒田官兵衛に頼るのだ。官兵衛は話を聞いただけで真相を見抜くが、村重には謎かけのような言葉を告げるだけで――。
 捕らえた者と捕らえられた者がまるで刑事と探偵のような関係になるのが興味深い。個々の謎解きも論理性と驚きに満ちて、ミステリの醍醐(だいご)味たっぷりだ。
 ただし本書で最も注目すべきは、なぜ村重と官兵衛なのか、なぜ有岡城なのかという点にある。
 そこに官兵衛を絡ませることで著者は、領主とは何か、民とは何か、ひいては戦国時代とは何かを見事に描き出した。読み進めるうちに、だから官兵衛なのかと膝(ひざ)を打った。村重の有岡城脱出の驚くべき絵解きであり、戦国時代でなければ描けない人間ドラマだ。
 米澤穂信初の戦国ミステリは斬新にして骨太。著者の里程標たる一冊である。

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