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 物語は明治の半ば、暁斎の葬儀の場面で始まる。幼い頃から絵の手ほどきを受けてきた娘の「とよ」は、河鍋暁翠(きょうすい)として22歳で一門を継ぐことに。病弱な妹を抱えながら、父の画風を守りたい一心で筆を執るが……。
 とよにとって、暁斎は〈越えようとしても越えられぬ師〉であり、〈娘を弟子としか見ぬ父〉。その死後も、赤い血ではなく〈黒い墨〉でつながる父の呪縛に思い悩む。
 「狩野派の修業は、師の描線をまねることを重視したそうです。とよには、描くことがそのまま、父の背中を追うことになってしまう苦しさがあったのでは」
 暁斎は自分の家が火事で燃えるさまを写生したとも伝わる。まさに画鬼の異名にふさわしい逸話だが、「男性は画鬼と呼ばれるほど絵だけに打ち込めても、女性であるとよは絵師であると同時に、妻や母であることも求められてしまう。彼女が生きた近代は『良妻賢母』の価値観が広まった時代でした」。
 資料を調べると、とよは娘を産んだ後に離婚していたことが分かったが、「その理由までは突き止められませんでした」。書くべきか迷っていると、河鍋暁斎記念美術館(埼玉県蕨市)の館長で、とよの孫娘の河鍋楠美さんから「創作は好きに書いていいのよ」と背中を押された。
 そうして描かれたのは、あまりにも偉大な父親の影に苦しんだ一人の女性が、時代の制約のなかで自らの生きる道を見定めようとする姿。画鬼になれないのではなく、ならない道を選び取る場面が胸を打つ。
 親交の深かった先輩作家で、17年に亡くなった葉室麟(はむろりん)さんから、「一人の女性を正面から書いてみたら」と言われたことがあったという。「けれん味なく人生を描いてみなさい、というアドバイスだったのでは」
 明治、大正、昭和を生きた一人の女性の生涯を書き上げたことで、「『どうです、文句ないでしょう?』と聞いてみたいですね」。(上原佳久)=朝日新聞2021年6月30日掲載

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